◇できる社長が「できない社員」を量産している

日本の中小企業約156万社のうち、従業員数20名以上の会社は約13%程度と見られています。
(対象は法人企業。中小企業庁「平成30年中小企業実態基本調査報告書」より)。

いざ自分が会社を経営してみると、その仲間入りをするのがいかに難しいことかお分かりになるでしょう。
そんななかで、3億円の壁を越え、さらには10億円の壁に挑戦する会社になれたということは、社長の能力に負うところが非常に大きいのです。

社長はできない人の気持ちが分からない

まず、社長は現場のプレーヤーとして文句なく優秀です。
営業出身とすれば、社内の営業マンが束になっても敵わない。
10件の見込客のうち、8件を受注するくらいのことは難なくやってのけます。本当にそのくらい優秀なのです。

また、経営者として修羅場をくぐり抜けるうちに、それ以外にも様々な能力を身に付けるようになります。
たとえば、トップセールスの営業マンは自社商品を売るのが上手ですが、極端な話、それだけです。
一方、トップセールス上がりの社長は、単に商品を売るだけではなく、マーケティングからアフターフォローまでバランスよく扱う感覚に優れていたり、
鋭い直感カや決断力で並はずれた成果を叩き出したりします。
社員では収められないクレームも、社長が出て行くと一発で解決できることも珍しくありません。

ところが、できすぎるために、分からないことも出てきます。
できない人の気持ちが理解できないのです。

社長は自分以外の人が凡人と気付いていない

「できない人」と言っても、社長よりはできないという意味です。
一般的な能力はあるけれど、スーパーマン社長と同じようにはさすがにできない。

ところが、社長は自分以外の人が凡人だとは気づいていませんから、誰でも自分と同じようにできると考えてしまうのです。
そのため、期待通りに動いてくれない社員を見て、「オレ様」社長はついつい憤慨してしまいます。

「どうしてこんな簡単なことができないんだ!」

とくに社長にとっては、商品を買ってくれそうな見込客がそこにいるのに、営業を社員に任せたばかりに受注できないのは、涙が出るほどもったいないこと。
自分が現場に出たほうがよほど儲かるので、何から何まで1人でやってしまうのです。
こういう社長の口癖は「オレの右腕がいれば、10億なんて軽く越えられるのに」です。
そんな優秀な人材が入社してくるはずもないのですが……。
結局、本当はできないわけではない社員は「できない社員」のレッテルを貼られ、大事な仕事は任されなくなります。
それどころか、社員教育の機会も失われ、放置されてしまうことも少なくありません。

◇できる社長は社員を教育できない

「社員を教育できない」と言うと語弊があるかもしれません。
2つの視点からその理由を考えてみましょう。

社長には社員教育をしている時間がない

まず第1は、社長には社員教育をしている時間がありません。
とくに3億円企業に言えることですが、現場の仕事を1から10までこなしている社長は、社員からは想像できないくらい忙しいものです。
人の面倒を見ていたら、お金を生む仕事、すなわち集客や営業の時間を削らなくてはなりません。
イコール、それは売上を削ることに直結してしまいます。
どちらをとるかを天秤にかけると、社長はどうしても売上をとってしまうのです。

社長には社員教育のやり方が分からない

第2に、社長には社員教育のやり方が分かりません。
意外かもしれませんが、社長はトップセールスとして社内の誰よりも売っていながら、自分がやるとなぜ売れるのかはほとんど説明できないものです。
プロ野球選手なども、昔はそうでした。最近では自分のバッティングフォームなどを頭の中で分析し、それを論理的な言菜で表現できる選手も増えてきました。
しかし、かつての一流選手は自分の技術を表現できず、それが笑い話になったものです。

中小企業の社長には、こういうタイプがとても多いのです。
ほとんどの社長は「オレがやっていることを、見て覚えればいい」と考えます。
まるで伝統工芸の職人さんが、自分の背中を見せて弟子を育てるような感覚です。社員を商談に同行させれば立派に育つと思い込んでしまう。

ところが、天才肌の社長と違って、凡人の社員は見ているだけでは覚えません。ましてや実際の商談でできるようにはならないのです。
「こうやればいいのか」と納得して次の機会に試してみたりするのですが、結果は社長がやるのと大違い。
かえって自信をなくしてしまうこともしばしばです。

社員が育たなければ社長は現場を離れられない

たしかにOJTは社員教育の1つですが、マニュアルを整備したり、研修を行なうなど、
他の教育ツールと組み合わせて計画的に実施してこそ効果を生めるものです。

多くの社長はそれを理解していないため、教育しているつもりになっているだけなのです。

そのくせ、部長や課長を置くようになると、「部下をもっと育てろよ」と言いはじめるから始末に負えません。
結局、社員が育たないと、ますます仕事を任せられなくなってしまい、ますます社長は現場を離れられなくなってしまうのです。

◇できる社長は社員の「やる気」を次々に摘み取っている

日頃から「社員のやる気が大切」「風通しのよい会社を作ろう」などと言っておきながら、
いざ社員が意見や提案を口にすると、それを3秒で否定してしまう社長が少なくありません。

社員に言わせれば、「言ってることとやってることが全然違うじゃないか!」と感じてしまうわけです。
もっとも、これは社長にだって言い分があります。

できる社長だからこその弊害

社長は経営者として、会社の責任を一身に背負っている立場にあります。
24時間365日、頭の中は会社のことで一杯で、もっと業績を上げるために何ができるのかを誰よりも深く考えています。
そんな社長に対して、社員が思いつきでポンと意見を出してくると、腹が立つのです。
「オレは人生を賭けて仕事をしているのに、その適当な言い草は何だ!」と。

たとえば、商品の企画会議を開いたとしましょう。
社長は社員の意見を聞こうと、最初は温かく耳を傾けているものです。
ところが議論の様子を見守っていると、社員たちは競合他社が開発した新商品の情報をほとんど把握していないようだ、ということが見えてしまう。
そうなると、口を挟まずにはいられなくなります。

「君たちはなぜ、大切な情報を把握していないのか!」
「予備知識もなしに会議に参加していること自体、おかしいじゃないか!」

などと、つい叱責してしまいます。

どちらの意見が正しいかと言えば、たしかに社長です。しかし、それを言ってしまうと社員は何も言えなくなり、

「それでは、社長のおっしゃる通りに致します」

という態度をとりはじめるでしょう。
社長のこうした発言が、社員のやる気を次々に摘み取ってしまうのです。

これこそ社長の中に住んでいる「オレ様」の弊害です。

希望に燃えて、会社のために働こうと思って入社してきた社員も、社長に意見を聞いてもらえなかったり、頭ごなしに怒られるようなことが続くと、
何も言う気が起こらなくなるのは当然です。

さらに悪いことに、社長は外部の人の話には素直に耳を貸すのです。
「こうするといいよ」と言われると、「なるほど、やってみましょう!」となる。その態度が、社員の怒りに油を注ぎます。
社員のやる気のなさが深刻化してくると、彼らは、

「しょせん、ここは〇〇社長の会社だから、自分なりに頑張っても認めてもらえない」

と諦めて、他の会社へ移ってしまいます。
決して、気合いとか根性がないわけではありません。この会社にいても伸び伸びと仕事ができないから、愛想を尽かして辞めていくだけです。
こういう状態を続けていても、社員はあなたへの不満を募らせていく一方。このまま社長が現場を離れようとすれば、会社はおかしくなってしまうでしょう。

◇現場を回らなくしているのも社長自身

現場べったりの社長というのは、次のような状態です。
たとえば、数字を上げるために1日中駆け回っているのですが、商談中にも別のお客様からひんぱんに電話が掛かってくるため、
そのたびに平謝りして電話に出なくてはなりません。商談が終わると必ず会社に電話をして、社員に細かな指示を出しています。
朝一番に出社してくるのも社長なら、深夜まで残業しているのも社長です。

なぜそんなに忙しいかと言うと、社員に仕事を任せられないため、売上の8~9割は社長1人で稼がなくてはならないからです。
とくに、3億円の壁を越えようとする会社は個人事業に近い規模なので、受注が減ってしまえば、たちまち資金繰りに窮してしまうかもしれません。

集客を行なうのも社長なら、営業を行なうのも社長です。その後の納品まで社長が行なうことが多いのです。
1度こういう構造ができてしまうと、営業や納品などのある仕事だけを社員に任せることも難しくなってしまいます。

全てを社長が引き受けている

この時、次のような悪循環に陥ってしまうのです。

・組織的な集客を行なっていないので、社長個人の人脈に頼って見込客を集めている

・社長個人の信用でつかんだ見込客なので、仮に社員が営業しても受注できない

・限られた見込客を受注につなげようと、トップセールスの社長が自ら営業に行く

・社員が納品するとクレームが発生するので、社長が納品まで行なっている

受注を一手に引き受けている社長は、もちろん超優秀。
しかし、こんな状態で売上を稼いでいると、それ以上伸ばすのが難しくなります。
しかも、社長が何から何まで行なわないと、現場が途端に回らなくなってしまうのです。

◇組織の改革を「思いつき」で行なっている

「成長発展の壁」を乗り越えるには「何を、どんな手順で行なうか」がきわめて重要。
たとえば、集客の仕組みを作るのが先か、営業スキルの底上げが先か、などです。
この手順をしっかり決めておかないと、効果を見込めないばかりか、会社が傾いてしまいます。
ところが、多くの社長はそのことに無関心なため、思いつきで改革しようとします。何ら計画性を持たず、場当たり的に改革を実施してしまうのです。

社長の思いつきで社内が混乱

その典型が「セミナー漬け」社長の行動。
会社の業績が頭打ちになると、社長は誰よりも強く危機感を持つようになり、経営の勉強を始めることが非常に多いものです。
経営者向けのセミナーに通ったり、経営書を読み漁ったり……。
そこまではよいのですが、セミナーで感銘を受けたりすると、困ったことに、突然それを現場に下ろそうとします。
たとえば、セミナーの翌日に、「うちの会社は企業理念がないからダメなんだ」と突然言いはじめ、
にわか仕込みで作った「社是」を社内に貼り出してしまう。そして、全社員を集めて「わが社はこういう理念で進めていく!」と発表したりするわけです。

しかし、3億越えのステップに、理念・ビジョンの共有は必要ありません。
社内を混乱させるだけだし、その時間を集客など優先順位の高い施策に充てたほうが、改革のリスクを遥かに小さくできるからです。

その他にも、コミュニケーション研修を受けると全幹部に参加させる。コーチングセミナーを受けに行くと、今度は営業マネジャーに行かせる。
幹部やマネジャーは仕事で忙しくても、社長に指示されれば嫌とは言えません。
社長が何らかの施策を仕入れるたびにそういう悪循環が起きて、社員は辟易してしまうのです。

何を、どんな手順で行うかが欠けている

たしかに、社長の間題意識は間違っていません。その努力や情熱も立派です。
コミュニケーション研修やコーチングセミナーも、使い方によっては、幹部や社員のスキルを高めるのに効果的でしょう。
しかし、こうした社長には「何を、どんな手順で行なうか」という戦略的な視点が欠けています。
どれだけ優れた施策も、行なうべきときに行なわないと効果は表れません。頭が痛いときに腹痛の薬を飲んでも効かないのと同じこと。
つまるところ、会社の何を変える必要があるのか、組織変革の全体像が分かっていないと、何をやってものれんに腕押し、事態はまったく変わらないのです。

ここで述べたことは、3億と10億の壁を乗り越えるステップで、
社長が「現場退場」の覚悟を固めるときの参考になるはずです。
会社の成長を邪魔しているのが、社員ではなく社長自身だと認識することから、ステージアップの改革は始まるからです。

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